観察することの重要性
前回、基礎技術の習得プロセス4段階のお話をしました。
●習得プロセスの4段階
1. やり方について知らない
↓
2. やり方を知っているができない
↓
3. 意識しながらであればできる
↓
4. 意識しなくてもできる
木彫で上手くいっていないことに取り組むときは、このステップで歩んでほしいところですが、歩めない方が中にはいらっしゃいます。そのような方の特徴の一つとして、「観察することを軽んじている」ということが上げられます。今日は観察することの重要性について取り上げます。
観察するとは
ここで「観察する」とは、彫っている作品全体のバランス、一刀を入れる前と後での変化、彫刻刀で彫り進めている瞬間の木のめくれ方、彫刻刀の刃先の当て方、彫刻刀の動きなどをありのままに見るということです。観察するにあたってどこを特に意識するかは状況により変わります。
観察することに重きを置く
初心者が混乱の中で彫り進めるとあっという間に無茶苦茶になります。ただ、初心者で技術がなくても観察することの重要性に気づいた方は無茶苦茶にはなりません。彫ろうとしているものを冷静に観察し、次の一刀をどこにどのように入れるか見極めて彫り進めてらっしゃいます。冷静な観察により、一刀一刀を大切にできますので、その過程でたくさんのことを学べています。そのような方はひとつひとつの技術について、習得プロセスの「3.意識しながらであればできる」に向かってすでに歩んでいます。「4.意識しなくてもできる」に到達することも不可能ではないでしょう。
ここで観察することを大切にされる方と大切にされない方の大まかな傾向を示しておきます。
観察することを大切にされる方 | 観察することを大切にされない方 |
特徴をつかんで彫っている | 山カンで彫っている |
失敗してもすぐに気づく | 失敗しても気づかず、どうしようもない状態になって初めて気づく |
同じ失敗をしない | 同じ失敗を繰り返す |
自分のやっていることをしっかり認識できる適切なペースで彫っている | 自分のやっていることを認識できないほど早いペースで彫っている |
上手くいかないところがあったらできるように努力する | 上手くいかないところがあったら勢いだけで乗り切ろうとする |
作品を作る過程で迷い悩みながらもベストを尽くし、最終的な完成度が高い | ぐだぐだになり完成度が低い、未完成で終わる |
ダメなところに向き合って初めて生長する
観察することを大切にされない方に顕著な特徴として、勢いに溺れ、彫るスピードが早すぎるというところがあります。
車の運転と同じで勢いよくスピード上げすぎると、視野が狭まり、まわりの景色が見えなくなります。よほど技量がないと事故にあいます。彫刻で技量なくスピードが早いと、一刀一刀による変化、順目と逆目、全体のバランスなどが見えなくなります。何ができていて何ができていないかさえ分からず、気づいたらグダグダになります。ダメなところを見つけ、向き合うにはスピードを落とさざるを得ないのです。
スピードを落とし、ダメなところが複数見つかった場合、すべてを一度に解決しようとするとしんどいので、できそうなところから順番に向き合って確実にやっていけばよいです。ひとつにしぼることができれば、考える負担は少なくて済みます。スピードを求める前にまず観察するところからはじめましょう。
こつこつやっていくうちに色々な誘惑や疑問や困難がわきかえってくることもあるでしょう。ただ、これに耐いてゆくと忍力がつき、ちょっとしたことでは動じなくなります。見事解決したときには「自分でも本気なってやろうと思えばやれるんだ」という喜びとともにやり抜く力もついてきます。
ゆっくりと歩いてしか、見つけられない景色があることに気づいてほしいなぁ。