仏像彫刻心得、心構え
前回のつづき。身体は、鍛錬すれば発達し、何もしなければ退化します。
今回は、木彫をする中で、ある人の身体に起こった変化についてのお話です。
今、上手く彫れない人の参考になればと思います。
指が動かず彫刻刀で指を切ってばかりのA氏
A氏は不器用で、彫刻刀で木を彫るとき、毎回のように手を滑らせ、指を切って出血していました。
A氏の指は退化していました。人差し指だけを動かそうとしたら、中指も薬指も小指も動いてしまいます。
薬指だけを動かそうとするとき、小指だけを動かそうとするとき、も同じようなものでした。
そんなA氏でしたが、彫刻を始めて半年ぐらい過ぎたころから、指を切る回数が減り、一年後には切ることが全くなくなりました。A氏の身に何が起こったのでしょうか。
A氏は言います。不器用であることを自覚し、彫刻する時以外も指を鍛錬してきたと。
歩いているときや入浴中に指のマッサージをしたり、指を一つずつ動かす練習したりしてきたそうです。また、指が少しずつ動くようになってきたら、それが楽しくなってきて、利き手でない方の手で、お箸を持って食事したり、ボールなげたりして、身体が変化していくのを楽しんできたそうです。
現在、A氏は気分よく彫刻刀を操っています。時間をかければ身体は変化することを信じてきたからこそできたのでしょう。
眼に障害を持つB氏
B氏は10代の頃から眼の病気を患っており、日々の視力も安定しておらず、疲れやすく、通常の人とは明らかに違う生活をしているそうです。
B氏は立体感覚に乏しく、思うように立体を彫ることができず悩んでいました。
病気が関係している可能性もありましたが、B氏はあきらめませんでした。
様々な角度から立体を見たり、照明の当て方を工夫したりして、何とか立体を立体として捉えようとしていました。
そんなB氏の眼に変化があったのは、彫刻をし始めて一年くらい経ったときだそうです。
B氏は言います。電車の中から夕陽を眺めていたら、雲がとんでもなく立体的に見えたと。また、スズメが飛んでいる時に羽のバタつきがコマ送りで立体的に見えたそうです。
現在、B氏は立体を立体として捉え、ゆがみやずれなどもある程度把握できます。眼の状態に左右されるそうですが。
さいごに
これはA氏とB氏の身に起きた現実の変化です。
このように身体が変化していくことは奇跡ではなく人間に備わる能力であると、A氏とB氏に代わり断言します。
なぜなら、A氏もB氏も、私ですから。