上手く彫ろうとすると、彫れなくなる理由
1. 一手に意味を載せすぎると重くなる
彫っているとき、
「うまく彫ろう」と思った瞬間に、
手が重くなることがあります。
慎重だからではありません。
技術が足りないからでもありません。
その瞬間、
今この一手の前に、
いくつもの可能性が同時に立ち上がります。
どの選択がよいか。
どこが安全か。
どこが形として残るか。
そのすべてが、
一手がまだ現実になる前に、
こちらの思考の中に入り込んできます。
2. 一手は、その場の情報だけで決まる
彫刻刀が触れているのは、
常に「いま」です。
刃先が触れている木目。
その硬さ。
その反応。
その場で確かめられる情報だけが、
いま選べるものです。
一手を進めるということは、
いま得られる感触を受け止めることであり、
そこからしか判断は生まれません。
3. 重さの原因は評価ではなく「広がり」
評価や完成像を先に持ち込むと、
一手に背負わせるものが広がりすぎます。
理想の形。
だれかの評価。
未来の成功や失敗。
これらはまだ起きていない出来事ですが、
いまの判断に影を落とします。
その影は、
手が触れている現実の情報を、
曇らせてしまいます。
4. 一手の質は、いま扱える範囲でのみ決まる
何を扱えるかは、
その瞬間の情報でしかありません。
過去の経験や未来の予測は、
一手そのものを決める材料ではなく、
範囲を広げ過ぎることになります。
一手は、
その場での感触を踏まえた最善を選ぶこと。
それが、重さをコントロールする唯一の方法です。
5. 上手く彫ろうとすることと、彫れること
「上手く彫ろう」と思うこと自体は、
制作と無縁と思えることではありません。
しかし、
一手の中に未来の評価を先取りした瞬間、
その情報の重なりは増えすぎてしまいます。
一手は、
いま確かめられる情報だけを扱う。
それだけでよいのです。








