明王

密教は古代インドの宗教と仏教が融合して発展してきたもので、「明王」は密教に特有の尊格です。明王の最大の特徴は恐ろしく激しい忿怒相(ふんぬそう)で、如来と菩薩の救いの手から漏れた衆生を恫喝してまで救おうとします。よって、ただ恐ろしい形相であるだけでなく、その中には慈悲が表されています。以下、明王の主な特徴です。
  • 忿怒相 [孔雀明王を除く]
  • 髪を逆立てた焔髪(えんぱつ) [不動明王、孔雀明王は除く]
  • 多くは顔をいくつも持ち(多面)、眼の数が多く(多眼)、手足が何本もある(多臂多足/たひたそく)
  • 上半身は裸で左肩から右脇にかけて条帛(じょうはく)をかけ、下半身には裙(くん)をつけ、体には瓔珞(ようらく)、臂釧(ひせん)、腕釧(わんせん)などのアクセサリーを身につける

    五大明王

    不動明王を中心に、東に降三世明王(ごうざんぜみょうおう)、南に軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)、西に大威徳明王(だいいとくみょうおう)、北に金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう、天台宗では鳥枢沙摩明王[うすさまみょうおう])を配するのが基本で、これら5体を「五大明王」と呼びます。

    不動明王、軍荼利明王、大威徳明王はしばしば単独でも祀られます。

    不動明王(ふどうみょうおう)

    不動明王のイラスト
    不動明王

    明王の最高位で、衆生を救うまでは動かず、煩悩を焼き尽くして救済することを役目としています。

    一般に、火焔光背を背負い、右手に剣、左手に羂索(けんじゃく:縄)を持っています。また、脇侍(わきじ)としては、矜羯羅(こんがら)、制咤迦(せいたか)の二童子が配置されることが多いです。

    降三世明王(ごうざんぜみょうおう)

    降三世明王のイラスト
    降三世明王

    三つの世界(現在・過去・未来の三世)と貪(とん=むさぼり)・瞋(じん=怒り)・痴(ち=無知)の煩悩を降伏する(抑え沈める)仏なので降三世といいます。

    シヴァ神とその妻である烏摩妃(うまひ)を踏み、手を胸の前で交差させ小指を絡め人差し指を立てた「降三世印」を結んでいます。

    軍荼利明王(ぐんだりみょうおう)

    軍荼利明王のイラスト
    軍荼利明王

    語源であるサンスクリット語のグンダリーニは「髑髏(どくろ)を巻くもの」の意と、「甘露(不死の薬)をいれる壺」という意の2つがあるとされ、後者の意から様々な障害を取り除いてくれる明王ともいわれます。

    手足に蛇を巻きつかせ、手を交差させ胸の前にあてる「大瞋印(だいしんいん)」を結んでいます。

    大威徳明王(だいいとくみょうおう)

    大威徳明王のイラスト
    大威徳明王

    阿弥陀如来の命を受け、悪の一切を降伏させるいわれています。

    特徴としては、足が6本あり水牛にまたがっています。また、小指を薬指の内側に入れて絡ませ中指を立てて合掌する「檀陀印(だんだいん)」を結びます。

    金剛夜叉明王(こんごうやしゃみょうおう)

    金剛夜叉明王のイラスト
    金剛夜叉明王

    語源であるサンスクリット語のヴァジュラヤクシャは「金剛杵の威力をもつ夜叉」の意があり、悪と欲を呑み付くし取り除くといわれています。

    中央の顔に5つの眼を持っています。

     

    鳥枢沙摩明王(うすさまみょうおう)

    天台宗の寺院で五大明王の1つとして、金剛夜叉明王の代わりに安置されます。世の一切の穢(けが)れと悪といった不浄なものを焼き尽くすといわれています。

    愛染明王(あいぜんみょうおう)

    愛染明王のイラスト
    愛染明王

    人間の持っている愛欲を浄化して悟りへの力に変える明王です。

    獅子冠をかぶり、弓、矢、五鈷杵(ごこしょ)、五鈷鈴(ごこれい)、蓮華などの持物をとります。

    孔雀明王(くじゃくみょうおう

    孔雀明王のイラスト
    孔雀明王

    孔雀は毒蛇を食べるということから、あらゆる毒を除き、病苦をも消し去る力があるとインドでは古くから信仰されており、仏教に取り入れられて孔雀明王となりました。

    その姿は、明王の中で唯一忿怒相ではなく菩薩のような優美な姿で、孔雀の尾羽と蓮華、ザクロの実、柑橘類などを持ち、孔雀の上の蓮華に座しています。